脊髄保護のためのAdamkiewicz動脈の同定と保護の有効性:J Thorac Cardiovasc Surg. 2016 Jan;151(1):122-8

The impact of preoperative identification of the Adamkiewicz artery on descending and thoracoabdominal aortic repair

Hiroshi Tanaka MD, PhD., et al., Japanese Study of Spinal Cord Protection in Descending and Thoracoabdominal Aortic Repair Investigators

J Thorac Cardiovasc Surg. 2016 Jan;151(1):122-8

要旨

この日本の多施設共同研究では、アダムキュービッツ動脈(AKA)の術前同定が、下行大動脈修復術および胸腹部大動脈修復術における脊髄損傷(SCI)予防に及ぼす影響について検討した。2435例の手術のうち、半数は術前にAKAを同定しており、そのほとんどはMRIやCTアンギオグラフィーのような画像診断技術によるものであった。この研究では、術前画像診断を受けた患者の87.6%でAKAが同定されたことがわかった。開腹修復(OR)におけるSCIの危険因子は、高齢、修復期間の延長、緊急手術、両側内腸骨動脈の閉塞などであった。AKAを含む大動脈セグメントを手術した症例では、AKAを再建しなかったことがSCIの有意な危険因子であった。この研究では、AKAを術前に同定し、適切に再建または温存することは、これらの大動脈修復の際に、より確実に脊髄を保護するための有用な補助手段となりうると結論づけた。

※AKAの位置

関連性

本論文は、大動脈手術、特に下行大動脈および胸腹部大動脈修復術におけるアダムキュービッツ動脈(AKA)の重要性に関する既存の文献に貢献するものである。以前の研究では、AKAの重要性と大動脈手術中の脊髄保護との関連性について論じられてきたが、本研究では、日本の多施設共同試験から得られた新しいデータを取り入れた。大動脈手術前のAKAの同定と再建の可能性に重点を置くことは、術後の脊髄損傷の発生率を減少させるための今後の研究と臨床実践の指針となるであろう。

Abstract

目的
多施設共同研究であるJASPAR(Japanese Study of Spinal Cord Protection in Descending and Thoracoabdominal Aortic Repair)登録を通じて、術前のAKA(Adamkiewicz artery)同定が脊髄損傷(SCI)予防に及ぼす影響を調査すること。

方法
2000年1月から2011年10月までの間に、日本の14の主要施設において、1998例の選択的修復と437例の緊急修復を含む2435例の下行・胸腹部大動脈修復術が施行された。患者の平均年齢は67±13歳で、74.2%が男性であった。1471例の開腹手術(OR)が行われ、その内訳は下行大動脈が748例、胸腹部ExⅠが137例、Ex IIが136例、Ex IIIが194例、Ex IVが115例、Ex Vが138例、血管内修復術(EVR)が964例であった。2435例のうち1252例(51%)がAKAを同定するために術前にMRIまたはCTによる血管造影を受けた。



下行大動脈から分岐した肋間(腰)動脈は椎体の外側で前枝と後枝に分かれる。前者は肋骨に沿って走行するのに対し、後者は脊柱管内へと向かう。その後枝は根髄質動脈,筋枝,椎体枝に分かれ、根髄質動脈はさらに前根髄質動脈と後根髄質動脈に分かれる。前根髄質動脈は脊髄の前根に沿って脊柱管内に入り、脊髄の前面を頭側に向かって斜走した後に前脊髄動脈と合流する。この前根髄質動脈は複数存在するが、その中で最も太いものが大前根髄質動脈,即ちAdamkiewicz動脈である。Adamkiewicz動脈が前脊髄動脈と合流する際には特徴的なヘアピンカーブを描く。(2020年改訂版大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインより引用)

結果
術前画像診断を受けた1252例中1096例(87.6%)でAKAが同定された。病院死亡率は、ORを受けた患者では9.2%(n=136)、EVRを受けた患者では6.4%(n=62)であった。SCIの発生率は、OR群で7.3%(下行、4.2%;Ex I、9.4%;Ex II、14.0%;Ex III、14.4%;Ex IV、4.2%;Ex V、7.2%)、EVR群で2.9%であった。ORにおけるSCIの危険因子は、高齢、延長修復、緊急、両側胃下動脈閉塞であった。AKAを含む大動脈セグメントのORでは、AKA再建がないことがSCIの有意な危険因子であった(オッズ比、2.79、95%信頼区間、1.14-6.79;P = 0.024)。

結論
下行・胸腹部大動脈修復術において、術前にAKAを同定し、適切な再建または温存を行うことは、特にAKAを含む大動脈病変の手術において、より確実な脊髄保護のための有用な補助となるであろう。

主要関連論文

  1. “The artery of Adamkiewicz: The myth, the reality, and the controversy” by Akutsu et al., 2005.
  2. “The artery of Adamkiewicz: Visualization by multidetector CT” by Morita et al., 2008.
  3. “Spinal cord protection during surgical procedures on the descending thoracic and thoracoabdominal aorta: Review of current techniques” by Etz et al., 2010.
  4. “Avoiding spinal cord injury in aortic surgery” by Dake et al., 2012.

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