☆私見!僧帽弁形成術でSecond Runの必要性におけるTEEでの評価方法

僧帽弁形成術(MVP)を行うにあたり、人工心肺終了時の経食道心エコー(TEE)による僧帽弁の評価は、手技の有効性の評価において必ず必要な手段である。

もちろん術者は、心停止下で水テストを行い、残存リークがないことを確認した上で手技を終える。しかし、心臓は様々な方向への運動が複雑に折り重なって動くものであり、必ずしも再度動き出した中で僧帽弁逆流を絶対に抑えられているとは言い切れない。そんな中、動き出してすぐの僧帽弁評価に一番適した方法がTEEである。

しかし、人工心肺終了時は刺激伝導系の不全や部分的な気絶心筋など、その動きはさらにランダム性を増すため、TEEでの評価方法に絶対はない。

今回、日々の臨床を行う上で、一麻酔科医としてどのような点を考慮してTEEを元に主治医にsuggestionするか考察していく。これはあくまで私見である点をご了承いただきたい。

1. ハートチームカンファレンス

まず、大前提として、外科医・循環器医・CE・手術室看護師とコミュニケーションが取る場があり、実際にとれていることは重要である。

そこで、年齢、frailty score、STS score、薬歴、既往歴(不整脈や虚血・塞栓性疾患などを中心に)など、患者の全体像を把握し患者背景の共通認識を持っておくこと。

また、僧帽弁逆流の性状や原因の確認と予定術式を確認しておく。
・Carpontierでどの分類?
・primary or secondary?
・secondaryなら心房性?心室性?
・心室性なら虚血?心筋症?大動脈弁に異常は?
・原因は1つだけ?それとも他にも組み合わさっている?
などなど
→それに対して、術者はどのようなアプローチで形成することを予定しているかを確認。


引用文献4より引用

まだ麻酔をかけるには情報が不十分だが、僧帽弁の評価を行うにあたり、少なくともこれらを認識した上で手術に臨む必要がある。

 

2. 麻酔導入後評価

全身麻酔導入後は、前・後負荷の低下、陽圧換気による静脈還流量の低下・左房収縮の有利性、筋弛緩による筋ポンプの停止など様々な理由で僧帽弁逆流の程度が減弱する。その状態でコントロールとして必要な情報を撮り溜めておくことは重要である。

以下に、術前に確認が必須な事項を示す。
・中部食道五腔像、中部食道四腔像で僧帽弁短軸における逆流位置・機序、humstringing、左房のおおまかな大きさの確認
・中部食道僧帽弁交連像でP1-A2/A2-P3における逆流位置・機序の確認
・中部食道長軸像、中部食道大動脈弁長軸像で僧帽弁長軸における逆流位置・機序、大動脈弁狭窄/逆流、左室流出路の確認
・3Dで僧帽弁のsurgical view
・上部食道左右肺静脈像で肺静脈波形の確認
・中部食道左心耳像でもやもやエコー・左心耳内血栓の確認
・経胃基部短軸像・経胃乳頭筋短軸像・経胃心尖部短軸像で大まかな左室収縮とasynergyの確認

これらを評価し、正常からどこが逸脱しているか、現在の病態を把握することで、人工心肺直前にも外科医との手術手技のアプローチ法などを議論することは重要である。


ASE/SCAの推奨28画面(基本11画面は赤字)

3. 人工心肺中

術者が実際に術野展開をして評価した所見と麻酔導入後評価した所見を照らし合わせ、アプローチを再確認する。

実際に行ったアプローチと心停止下での水テストの結果、不安が残る部分などあれば共有する。

4. 人工心肺離脱時評価

この時点での評価こそsecond runの有無に直結する。大前提として、人工心肺や心筋保護液、手術手技による物理的損傷・圧迫など様々な影響により、心筋の動きは不十分なことがほとんどである。そんな中、いかにprimaryな要素かつ修復可能な要素があるかを確認し、その修復が患者に耐用できるかの判断が肝要となる。

 

4.1. カラードプラを用いて僧帽弁の逆流の有無を視覚的に評価する
逆流がほぼほぼなければ問題はない。
ただ、逆流があった際に、どの程度か、それはどんな機序かを確認する。
程度を見たい時に、外科医に一番逆流強いところの逆流面積を見てほしいと言われることがある。逆流面積はあくまで2Dである平面を切り取っただけなので、最大値を見ることはできても、絶対的なものとは言い難い。
やはり、他の理由も含めて考えることをしなければいけない。

4.2. 修復が必須な状況を確認する
・僧帽弁狭窄が見られる場合
  (meanPG > 7mmHg, peakPG > 17mmHg)
・人工心肺終了前後でカラードプラの比較で増悪の確認
・ジェットの存在が溶血を引き起こしうる場合
  (ジェットがリングに当たっている場合など)
・肺静脈血流波形のS波逆転の有無
・SAMのリスクを評価
  ・AL/PL > 1.3
      ・C-sept < 25mm
  ・PL > 20mm
      ・リングが小さい
  ・A弁と中隔・A弁とM弁(<120°)の角度が小さい
  ・LV過収縮・狭小
  ・中隔の肥厚
  ・乳頭筋の前方逸脱

4.3. カラーMモード法を用いて逆流の性状を評価
収縮中期〜拡張期にかけて減衰することで機能性、すなわちSecondaryな要素がある。減衰が見られない場合はPrimaryが想定され、時間経過を経ても逆流が改善することは見込みづらい。

4.4.患者背景を考慮
年齢、frailty score、STS score、薬歴、既往歴など、患者の全体像を把握し、それを評価に反映させることが重要

最後に、上記の全評価を総合し、術者と共に最終的な評価と今後の対策を討議します。

 

5. まとめ

経食道心エコーによる僧帽弁の評価は、術後の結果と患者の予後を理解し、必要な措置を迅速に行う上で重要である。適切な評価法と個々の患者の状況を理解し、各ステップを慎重に踏むことで、よりよい患者ケアを提供できるようになるだろう。

 

引用文献

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