2つの試験の相違点についての考察
この議論は、二次性僧帽弁閉鎖不全症(MR)の治療におけるMitraClip手術の有効性を評価するために行われた二つのランダム化比較試験(RCT)、COAPT試験とMITRA-FR試験を中心に展開されています。これら二つの試験の結果は相反し、この手術の患者選択についての議論を引き起こしています。
COAPT試験では、MitraClip手術は、薬物治療単独と比較して2年間の心不全再入院と全死因死亡率を有意に減少させることができました。この効果は3年間の観察期間でも同様でした。一方、主にフランスで行われたMITRA-FR試験では、薬物治療群とMitraClip群を比較しましたが、1年間の死亡・心不全入院率に有意な差は認められませんでした。
この議論では、試験結果の不一致の理由として、患者スクリーニングの厳格さ、患者数、プライマリーアウトカムなどが挙げられています。COAPT試験では、MITRA-FR試験よりも左室駆出率(LVEF)が高い患者群を対象とし、重度の左室拡大を除外しています。さらに、MRの重症度もCOAPT試験でより高く設定されていたことが注目されます。2021年のヨーロッパ心臓病学会(ESC)のガイドラインでは、エッジ・ツー・エッジ・カテーテル治療の意思決定に”COAPT criteria”の使用が推奨されています。
一方、2021年にJACC Interventionに掲載された一研究では、イタリアとポルトガルの3施設からの304名の患者を対象に、COAPT criteriaの現実的な適用性を調査しました。この研究の結果は、COAPT criteriaによる患者選択がMitraClip手術の成功に対して有意な影響を及ぼす可能性を示しています。COAPT criteriaをすべて満たす患者群では、2年および5年での全死因死亡率および心不全入院率が有意に低かったことが確認されました。これらの結果は、MITRA-FR試験の患者選択基準を使用した場合には見られませんでした。
以上の分析から、COAPT criteriaに基づく患者選択が、MitraClip手術の結果を改善する可能性があることが示唆されています。これは、より優れた予後を期待できる患者を選択するための重要な手掛かりとなり得ます。
Key Topics
- COAPT trial
- MITRA-FR trial
- MitraClip procedure
- Secondary mitral regurgitation
- Patient selection
- COAPT criteria
Suggested Milestone Papers
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Stone GW, Lindenfeld J, Abraham WT, et al. “Transcatheter Mitral-Valve Repair in Patients with Heart Failure.” N Engl J Med. 2018;379(24):2307-2318. (COAPT trial)
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Obadia JF, Messika-Zeitoun D, Leurent G, et al. “Percutaneous Repair or Medical Treatment for Secondary Mitral Regurgitation.” N Engl J Med. 2018;379(24):2297-2306. (MITRA-FR trial)
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Praz F, Spargias K, Chrissoheris M, et al. “Compassionate use of the PASCAL transcatheter mitral valve repair system for patients with severe mitral regurgitation: a multicentre, prospective, observational, first-in-man study.” Lancet. 2017;390(10096):773-780.
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